第9投函

生活は目を見張って驚くべきことだらけであって、毎日口をあんぐり開けて、「なんとまあ」とつぶやかずにはいられません。熱した油に冷たいしょうがのチューブを落としたらぱちぱち跳ねまくって危ないこと、3年同じのを使っているシャンプーが実は青りんごガムみたいな匂いのすること、自分の家で炊いた飯でつくる塩むすびが結局一番おいしいこと、大量の果物の仕送りはジャムにしちゃえば簡単に太刀打ちできてしまうこと、天気がいいと洗濯物がすぐに乾くこと、天気が悪い日は目が覚めていてもなかなか起き上がれないこと、窓から入ってくる光の色が毎刻毎刻変わっていくこと、たまに来る連絡が呆れるくらい嬉しいこと、出したものを元の場所に戻すと結構部屋が片付くこと。あなたは「馬鹿、当たり前じゃないの」と言って笑うかもしれないけど、私にとっては全然当たり前ではありませんでした。というよりは、当たり前であることを知ってはいたけれど、それがどういうことなのかよく分かっていなかったのです。これまで自分の生活をどれほどないがしろにしてきたか、つくづく思い知らされています。

改めて、あなたに聞きたいことがたくさんあります。お正月につくってくれるあの赤玉ポートワインの寒天、どうやって作るのですか。押入れ下段の真ん中あたりにため込んでいるリボンや紐のきれっぱしや毛糸の類、何に使うものですか。昼過ぎに起きても、家を出る用がなくても、毎日必ず化粧して髪をセットしていたと思いますが、あれにはどういう理由があるのですか。教えてくれたら嬉しいです。私はあなたが何年もかけて積み上げて来た、あなたの誇るべき生活のことが知りたいです。ようやく、今になって。

もちろん返信に書いていただいてもいいのですが、ちょっと読みにくい時があるので(字が汚いとかそういうことを言ってるのではなくて、ちょっと達筆すぎて、ごめんなさい)、帰った時にまた聞きます。どうかくれぐれも、体調には気を付けて。

 

令和2年4月13日