第18投函

この前はどうもありがとう。久しぶりに会えて、嬉しかった。何だか癪にさわるから、あの日は言えなかったけれど。

あなたの何がいやだって、他の友人がいたついさっきまで、ほんの3分前までは、はしゃいで大声出していたくせに、私と二人になった途端、だんまりを決め込みはじめるところだ。この前だってそうだった。私は「また来たか」と思って、一生懸命話題を探す。今度つくってみたいぬいぐるみのこととか、明日のあなたの予定の事とか、この前奈良に行って見た横断歩道を渡る鹿のこととか、あなたが食いつきそうな話題をアクセル全開で探し回る。それなのにあなたという人は、歩きながら伸びた影の頭のてっぺんあたりをじいっと見つめて、うん、うん、と遠慮がちに相槌を打つ。私はあわてて、さっきの1.2倍声をはってみるけれど、大きな道路の真横を歩いていたから、車の走行音にかき消されてしまう。あなたはまるで私に興味がない。腹が立つ。今だって腹を立てていて、必要以上にぱちぱちと、音高くキーボードを打ち鳴らしている。これじゃまるで、私があなたに色んなことを、話したくてしようがないみたいじゃないか。

あなたの泊まってたゲストハウスまで送っていった後、アジカンを聴きながら歩いて帰った。こんなふうに腑に落ちない帰り道は実に二年ぶりで、穴ぼこだらけで居心地の悪い夜の道が懐かしくて愛おしくて、私はさっき別れたばかりのあなた、ついでに二年前のあなたともう一度会いたくて仕方なくなって、悔しくて駆け足で家に帰った。半袖のTシャツにカーディガンを羽織ったくらいがちょうどいい涼しさも、丁度真上に昇った月も、何から何まで腹立たしかった。あなたというやつは本当にずるい。

たった二日ぽっち戻ってきて、いったい何をしに来たの。私とラーメン食べてる時間に、いくらでも会うべき人、やるべきこと、あったんじゃないの。もっと長い時間いればよかったのに。そりゃ私には、関係ないけど。もっと長い時間いればよかったのにさ。

 

令和2年10月9日