第3投函

朝起きて風呂に入って体を洗って、こんなところにホクロがあったっけなあと考えながら指先でいじくってたらポロリと取れて、洗面台に放ったところ勝手に動き出したので、不思議に思ってよく見たらちょっと赤っぽい足が何本か生えてる気がして、何か思いついてしまう前に最大水圧でシャワーを浴びせかけ、感情も一緒に排水口へと押し流しました。無用の殺生はしない主義なので、その一点が気になっています。このせいで死んだ後は地獄行きかもしれないと思ったら、少し嫌です。

初っ端からすみません。なにぶん、あなたに手紙を書く日が来るとは思ってもみなかったので、何を書けばいいものか、まだよくわかっていないのです。あなたと偶に会うときは大抵、私ばかりが喋ってしまって、それも段々つまらない話や、一度したような話ばかりになってくるので、いつも申し訳なくなってきます。「自転車は乗れないんじゃなくて、立派に漕ぐことはできるんであって、操れないだけ」という話、毎度毎度聞かせている気がします。気づいていましたか。

私が私の話をするのは、私の話をしたいというより、あなたの話が聞きたいからです。中学の頃に友達二人が、放課後のゴミ捨て場あたりだった気がするけれど、楽しそうに喋ってるところを見かけて、割り入って(今考えると随分な度胸だと思いますが)「何話してるの?」って聞きました。そしたら彼女らちょっと困ったように笑い、「だって、**は何も教えてくれないからなあ」と言って、その後一緒に帰ってくれました。当時の私は若干憤慨しながら、「情報とは等価交換されるものなのだ」と学びました。

あー、またつまらない話を長々と。つまり、これだけあげればこのくらいもらえるかしら、もらっても許されるかしらと、はしたない皮算用をしているわけです。しかしあなたは私の計算を見事に裏切って、いつまで経っても聞き役に徹してるもんだから、私が小賢しいやつにならずに済んでいます。ぎりぎりです。ぎりぎりでいつも生きています。何を言っているかわかりませんか?私にもよくわかりません。

だけどもやっぱり、あなたの話もきちんと聞いてみたい気がしますので、こいつへの返信を出す気になったら、是非そこに書きつけてください。短くて良いです。

……いや、「別に何も話すことないけど」と眉をひそめるあなたが容易に想像できたので、一つお題を出しておきます。ヤドリギとか、コバンザメとか、大きな生き物に宿って生きているあいつらのことを考えたことがありますか?(寄生という言葉は使いたくありません)私は今朝初めて考えました。何か思いついたら教えてください。

 

令和2年4月5日