第4投函

久しぶり!元気だった?10年前に年賀状をやりとりして、それきりですね。今はどこで、何をしているんでしょう。私ですか?勉強して本を読んでテレビ見てご飯を食べて、まあ、あれからそんなに変わりません。少し怠け者になりました。

最近は金曜ロードショウでジブリをやってますね。先々週が魔女の宅急便で、先週が思い出のマーニー。私は千と千尋の神隠しが見たかったんだけど。去年の夏ごろ放送されてたから、暫くはやらないだろうと思います。

うちの母の厄介な癖として、立て続けに何度も同じ思い出話をするというのがあります。一回目はいいんです。昼ごはん食べながら「そんなこともあったわね」と相槌打っておけばいいし、実際懐かしい気持ちにもなる。これが、おやつの時間、夕食の時間、翌日の朝ごはん、と続くとどうしようもありません。妹はちゃんと返事をするし、「こんなこともあったよね」って会話に発展させます。偉いです。祖母は正座してお茶碗からご飯を食べながら、「何回も同じ話をしなさんな」。以上です。祖母の事は大変好きですが、正直娘でなく孫として生まれてよかったと思います。私はというと、テレビから眼を放さずに「ああ」「うう」と声にならない声で相槌の代わりにします。

母の思い出話にはいくつかレパートリーがあって、そのうちの一つが、あなたのことです。「**ちゃんは千と千尋のあれ、ハクに似てるって、言われてたわよね」。これだけです。本当にこれだけ。これ以上の発展はありません。しかも「ハクに似てる」って言ったの私じゃないし。一緒に集団下校をする同級生の中に居た、おかっぱ頭の男の子のセリフです。

お陰で私はあなたが引っ越した後も、千と千尋の神隠しを見ると、あなたのことを思い出します。どう見たって髪型以外、ハクには全然似ていなかったあなたの、切れ長の目元とか少しとがった口もとを思い出します。物心がつくのが遅かったので、あなたと何を話したかとか、あなたがどんな性格だったかとか、正直何も覚えていませんが、名前と顔とハクのことだけは、恐らくこの先も忘れない気がします。私たちは一番の仲良しだったみたいですね。それだけです。じゃあね。

 

令和2年4月6日