第1投函

川べりの桜が満開の時期を迎えて、土手にほろほろと花びらを落としはじめています。

バイトから帰るときはいつも川沿いを歩くことにしていて、今日は夜桜見物も兼ねていた訳ですが、月夜に並び立つ桜の木々は夜闇にもまぎれぬうつくしさだのに、ご時世ですね、見物人らしい見物人も見当たらず、なんだか無性に淋しくなったので、大声で歌を歌いながら、ぶんぶん腕を振って歩きました。

恐らくは運動系サークルの大学生だと思うのですが、筋骨隆々のタンクトップ三人組がランニングをしていて、「うたって~!もっとうたって~~!!」と叫びながら私を追い越していきました。出先で迂闊に大声で歌ってはいけないという教訓です。歌っていたのはスピッツの「春の歌」です。

 

お元気ですか?私は元気です。長らくのご無沙汰をお許しください。

先日は沢山マスクを送っていただき、ありがとうございました。ちょうど切れかけていたので助かりました。レターパックの内容物を記載する欄には「くつ下」と書かれていて、どうしてまたそんなものを、と思って封を開けたらくつ下なんぞ一足も入っていなくて驚きました。うっかり間違われたのでしょうね。それとも、今私がマスクとして使っているのはくつ下なのでしょうか。少し怖いような気がします。しかし粉塵飛沫等は防げている感じがするので、最悪くつ下でもいいです。

さて、私の近況はと言いますと、授業の開講が5月まで延期になることが決まったようで、かなり途方に暮れています。1か月という時間はあなた、運よく手にするボーナス・タイムにしては、あまりに長くて広大です。去年や一昨年であれば受け取り方も違ったでしょうが、次で学部4年生になり(!)、卒論執筆将来設計その他もろもろが降りかかりつつある身としては、予定になかった開講の遅れなんかお腹しくしくインシデントに他なりません。行く手に広がるのは昼寝に都合の好さそうな萌黄にけむる春の野原ではなく、枯草転がる縹渺とした荒野であります。ンなところで寝ちゃあ砂だらけです。風呂場なんか大変なことになること請け合いです。

あなただったらどうするでしょうか。きっと慌てず騒がず、出来ることからやりはじめるのでしょう。きれいに整頓された部屋の中、背筋のすっと伸びたあなたが真理の淵をのぞき込む顔つきで机に向かっている姿を、私は容易に思い浮かべられる。(あるいは散らかった部屋で猫みたいに丸っこくなっているあなた、不思議とどちらもぴったり来る)

私はどうするべきでしょうか。教えて欲しくてこれを書いているのかもしれないし、全然そんなの関係なく、ただあなたにお便りしたかっただけかもしれません。

 

何にせよ、書くということは精神安定にもってこいですね。私に書けるのはこんなツマラナイ手紙ですが、お付き合いいただけたのであれば、これ幸い。

近々またお便りします。それでは。

 

令和2年4月2日