第5投函

昼と夜との寒暖差がひどくて参ります。日中は随分暖かくなってきたけれど、夜、のどが渇いたから飲み物を買おうと思って、寝間着にマフラーだけ巻き付けて家を出ると、信号待ちで風に吹きつけられて思わず足踏みをします。昨日は月が真ん丸で、空がとても明るかったです。

このお便りも毛布にくるまりながら書いています。うちは東向きの二階なのですが、どうも底冷えがして、昨晩はもう4月だというのに思わず暖房をつけました。そちらはここよりずっと北ですから、これよりもっと寒いでしょう。空が広くて、月や星がよく見えるでしょう。

ついこないだ『羊をめぐる冒険』の上巻を読み終えたので、北海道の緑の牧草地に、むやみやたらと憧れます。村上春樹とは今まで全然縁がなくて、去年『世界の終わりとハードボイルドワンダーランド』を読んだ以来だから、これで二作目、文庫本にして三冊目です。「僕は窓から射し込んでくる午後の光を手のひらに受け、それを彼女の頬にそっと置いた」というところが一等好きです。我ながらベタベタだと思います。

下巻はユーズドでいいやと思って、近所の商店街の古本屋を二軒まわりましたが見当たらず、江國香織の『間宮兄弟』と、アガサクリスティーの『火曜クラブ』と、ちくまから出ている古典落語の本を買いました。あとの二冊はいつ読むことになるか分かりません。そもそもまだ読んでいない本が家に何冊かあるのです。二年、三年モノの熟成品も。暫く本屋には行くべきでないのではないかと考えたりもしますが、「今読みたい本が読むべき本」をモットーにしているので、あまり気にしなくていいと思っています。

そう、下巻の代わりに、牛乳を買いました。いつもより10円高い牛乳と、いつもより30円高い食パンを買って帰りました。今朝冷蔵庫から取り出して、青い空に緑の草っぱらが牛乳らしくきちんと印刷されたパッケージを見て、改めて牧草地に憧れました。どれだけ走り回っても叱られなくて、どれだけ大声で歌っても迷惑かけなくて、周りにいるのは牛大勢と少しの羊だけで、昨日と今日と明日の、あるいは私の内と外の境目が、全部どうでもよくなって、今とその場所しかなくなるような、そういう、気持ちのいい牧草地。実際の所はどうなんだろう、多分フンとか沢山落ちてて、例えば寝転がったりしたら悲惨な事になるんじゃないかしら。しかしそういう予想は、私の憧れに何ら影響を及ぼしません。

夏になったらそちらに伺いたいです。乳製品でお土産によさそうなもの、買って帰るので見繕っておいてください。乳製品はずっと好きです。

 

令和2年4月7日